8mm

監督:ジョエル・シュマッカー

出演:ニコラス・ケイジ / ホアキン・フェニックス / ジェームズ・ガンドルフィーニ / ピーター・ストーメア / アンソニー・ヒールド / クリス・バウアー / キャサリン・キーナースナッフ・フィルム。

最後に殺された女の子の母親からの感謝状で終わる。つよいメッセージ性がある。しかし、見終わったあとの絶望感、虚無感はなんなんだろう。現実はこうなのだ。快楽目的で人が殺され、殺した人間を殺せば感謝する人がいる。死刑もある。殺しに激しいエクスタシーを感じる人間がいる。

マスクをした「マシーン」という男。敬虔なクリスチャンの母親に育てられ虐待もない、それなのに平気で人を殺し、それが快感でしょうがない。見た目は平凡どころか善良そうな中年男性で、決して「モンスター」なんかじゃないのだ。これが現実なのだろうか。殺しに快感を覚える人間はどうすればいいのか。嗜好の自由はどこまで許されるのか。

唯一の救いのように見える、美しい妻と、ものすごくかわいい赤ちゃんのいる家庭も、「マシーン」の家庭環境の話を聞いてからはグロテスクなものにさえみえてくるのだ。

殺しにエクスタシーを感じる人間は、男女間のセックスにエクスタシーを感じる普通の人間とどれくらい違うのだろうか。かつては異性愛が「正常」であったが、今は同性愛も普通の愛の一形態として認められつつあるじゃないか。性的嗜好の自由はどこまであるのか。

「快楽」をもとめて人を殺す人間。
「金」を求めて人を殺す人間。
「力」で人を殺させる人間。
そういった人間を裁くのはだれなのか。なにをもって彼らを裁くことができるのか。
答えはない。

前半の展開、テンポにやや難があるように見えたが、荒んだ街や枯れ葉、枯れ木のなかなか美しい映像がそれを補う。このダークで美しい映像をふくめひたすら暗い映画。「セブン」とも似た面が多いのだけれど「セブン」はブラピがいただけブラピ見とれることも出来たのだけれど、こちらはニコラス・ケイジじゃちょっと無理だ。というわけで救いのない話なのだが、社会にある「正義」「死刑」「自由」などという問題を改めて浮き彫りにさせ、考えさせるという意味ではかなり良い。

しかし、ニコラス・ケイジを行動に駆り立てた動機であり、もっとも肝心と思われる「少女が殺されたことに対するニコラス・ケイジの怒り」というものがイマイチはっきり描かれていなかった。殺された少女を母親の側からのみ描いているので、やや弱かったのかもしれない。この怒りが強く描かれていればかなりの傑作になったとおもう。

ネットで調べてみると「グロい」という感想が目立つのだけど、意外とグロテスクな場面は排除してあり、「そういうのだめ」という人でも大丈夫だと思う。高校あたりの授業で見せるといいとおもうんだけど・・・。いや、だめかな・・・。

「マシーン」という名前も意味深長。「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン」じゃないけど、マシーン=社会、と考えれば病んだアメリカ(およびアメリカ的世界)を映し出しているとも見える。エロビデオ屋のにぃちゃんが繰り返してたセリフ。「一度はいったらぬけだせない」世界・・・。たしかにそうだなアメリカ的世界って、便利だし・・・。

最初の例えばタバコをすってどうこうというシーンとか、小技を効かせているとこはいい味だしていてとても好きだ。

音楽も主張しすぎることなく、要所で流れるアラビア風の音楽もいい味だった。

スナッフ・フィルムをとったアングラビデオ監督役の男はイカニモあやしいってかんじだったけど実際アングラビデオなんかとってるひとってのは、実際にこれくらい怪しいのだから笑える。で、この男の死に際がよかった。消えいるようにスッと「もっと映画的に死にたかった」なんていうのは可憐でバカバカしくていい。

あと役者がどれもみないまいちインパクト、存在感に欠ける。印象に残ったのは、「マシーン」の眼鏡をかけたまじめそうな顔、めちゃめちゃかわいい赤ちゃん、あと殺された少女の母親の号泣っぷり。

 

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