イングリッシュ・ペイシェント(1996/アメリカ/The English Patient)
監督 アンソニー・ミンゲラ
出演 レイフ・ファインズ / ジュリエット・ビノシュ / クリスティン・スコット・トーマス / ウィレム・デフォー / コリン・ファース / ナヴィーン・アンドリュース
 
 
 なんかすごくかなしい愛の物語。本当にかなしい。
 過去の回想場面と、現在の場面が交互に描かれる。主人公の「イギリス人の患者」が看護婦のハナに看護されるにつれた、少しずつ過去を思い出していく。思い出されるのは人妻キャサリンとの恋愛だった。という話。
 特筆すべきは映像の美しさ。砂漠の乾いたオレンジ色と青い空が美しい。砂漠の陰影は、冒頭のジューシーなプラムを食べるシーン(そして言う「VERY PLUM」という言葉)、青空のもとでシャワーを浴びるシーン、首を洗うシーンなど、なんともエロティックで美しい。特にオープニングの筆でゆっくりと絵を描いていくシーンはすばらしい。潤いのある筆から乾いた紙に液体がすうっと吸い込まれる。乾きと潤い。
 タイトルは意味深長。「名前」(あるいはアイデンティファイすること)とはいったい何なのか。「名前」が外国名であったためにアルマシーは愛する人を失った。「国籍」とは何か。戦争において、たとえばドイツ人とアイデンティファイされているだけで、その人間を殺さなければならなくなったりする。同国人というだけでまったく逆の態度をとる。それはただ、そういうラベルが貼られているだけなのだ。さらには結婚とはなにか。不倫とは何か。「夫婦」であると明言化されているだけで、結婚前に於けるようなことは出来なくなる。結婚前には祝福されていた行為が結婚後には悪い行為となったりする。
 最後「イギリス人の患者」こと、アルマシーはモルヒネのビンを転がし、看護婦に殺してくれるように目で懇願する。このシーンがもっとも静かで強烈な印象を残す。
 基本的に淡々として物語がすすんでいくのだが、地雷撤去の場面、ラブシーン、拷問の場面、など緊張感のあるシーンがちょうどいいところに織り込まれていて中だるみしてしまうと言うことはない。3時間近いのは少し長すぎる気がしないでもない。音楽もでしゃばらず映像とマッチしており、よい。
 バッハのゴルドベルク変奏曲を弾くシーンでバッハのことを「バック」とよんでいたのには驚いた。そいえばハンニバルでもこの曲を弾くシーンがあったなぁ。
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