ファーゴ (1996/米)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005V2NC/vidi-22/
監督 ジョエル・コーエン
脚本 ジョエル・コーエン / イーサン・コーエン
出演 フランシス・マクドーマンド / スティーブ・ブシェーミ / ウィリアム・H・メイシー / ピーター・ストーメア / ハーブ・プレスネル

 一番最初に「この話は実話である」という風に出るのだけれど、実際は実話でないらしい。すべてコーエン兄弟によるフィクションだという。

 なんといってもキャラクター一人一人の個性がしっかりと描かれており、すばらしい。ジェリーのサラーリーマンとしての悲壮感にもにた何かに追い立てられるかのような焦り。しかし彼は、金にとりつかれたごく普通のサラリーマンだ。

 ジェリーの妻の誘拐されたときの恐怖感にあふれる様子。誘拐犯が入ってきて電話をかけようとするシーン。電話がはぎ取られ、風呂場に隠れているところを見つかりそうになるシーン。どれも緊張感が張りつめており、ホラーとしても一級品であるように思う。とくに雪の中を闇雲に走り回り、それを誘拐犯の二人がたいしておもしろくも無さそうにシーンは印象的。

 犯人は二人ともそれぞれに強い個性がみえる。カールの血の気が人の十倍くらい多そうな苛ついた様子。グリムスラッドの狂気。とくに口数が極端に少なく感情の起伏もあまりないグリムスラッドが顔色一つ変えず人を銃殺し、相棒であったカールでさえミンチにしてしまうというのは衝撃的。「羊たちの沈黙」のレクター博士の低知能バージョンといったところだろうか。

 捜査官に話をきかれる頭の悪い女の子達との会話や、やたらとバイキングで大盛りに盛りまくる妊婦捜査官が笑える。妊婦だからといったってあそこまで食うのだろうか。それともあれはアメリカンスタンダードなのだろうか。いや、旦那よりぜんぜん食っていたような気がする。ただ、カール(スティーブ・ブシェーミ)がいろんな人にひたすら「変な顔」といわれるのはイマイチ笑えなかった。

 あまりにも悲惨な事件が起こっている一方、妊婦の捜査官と旦那の間のあまりにも平凡すぎる幸せな家庭がたんたんと描写される。切手のデザインのコンクールで3セント切手に旦那の描いた絵が採用されたことを喜び、「わたしたちってしあわせね」といって終わる。

 平凡な家庭と悲惨な事件が同じ地平で描かれることにより、悲惨な事件も現実との間に大きな差が無いのだと言うことが実感される。

 真っ白な雪と真っ赤な血の色の対比がグロテスクな美しさをもっている。雪原のひとを寄せ付けないような真っ白さ、冷徹さと、ベッドルームの暖かい映像が対照的だ。

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